出船前に船着き場での事。
舟に荷物を積んでいたら
隣り舟のお爺ちゃんが
「竹竿しか持っていないのだけれど大丈夫でしょうか?」
「どんな竿を持ってきてるんですか?」
「孤舟なんですけれど。一応硬めの竿を持って来たんですが・・・」
「大丈夫ですよ。少しポイントから舟を離して止めて、12尺位使った方がいいですよ。」
曳舟は秋山川から桂川に出て
最上流ポイントの上野原まで向かい
各自途中、船頭にやりたいポイントで放してもらう。
この日は乗っ込んでいて
押尾のワンドにかなりの魚が入っていた。
本流からのカケアガリ魚道ポイントを
後ろに繋がれていたお爺ちゃんに教えてあげて
そこにその方が入れる様に船頭に言ってあげた。
おいちゃんは上野原へ向かう。
夕方、ナイターの曳舟が
釣り師の舟を数珠なりに曳いて
上野原にやって来た。
自分はそのままナイターに突入するので
船頭が夜食の弁当を届けに自分の舟まで来て言った。
「あのお爺さん、八寸釣ったよ!」
「えええ~」
「凄い喜んで帰ったよ。」
何故かとても嬉しかったのを覚えている。
割り箸の3分の1程しかない穂先の細身竿で
拓寸八寸とは言え野ベラの大型を釣り上げたのは
”合わせ”意外にないだろう。
静かに「サッッ」と合わせれば
魚は意外と暴れないで上がってくるものである。
釣りの醍醐味は ”竿を大きく煽って魚をフッキングする手応え” で
鮎釣りをしていた頃は囮屋のオヤジに
「合わせちゃダメだよ」とよくからかわれたものだった。
へら釣りとは独特な釣りスタイルで
”穂先を水中に入れて釣る”
他には無い釣りだ。
ヘビーなタックルで豪快に合わせて釣るも
繊細なタックルで音無しの合わせで釣るも
使う道具に合わせて釣りスタイルを変えることで
自分の遊びに幅が出来るし
大切な道具にも優しい筈だ。
あの時代、八寸の魚拓は
2枚しか船宿に飾られていなかった。
その日から八寸超えの魚拓が3枚になった。
「竿は先代孤舟、両グルテンで釣った」事は
お爺さんと自分しか知らない
3枚めの輝く魚拓。
30数年前の話し。
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